2020.06.26源庫

本当の望み、偽の欲望

これまであなたはいろんな望みを抱いて生きてきた。
その中には叶ったものもあるし、叶わなかったものもある。
望みが叶わないから不満なのはともかく、時には、叶ったことでかえって不安になったり、期待したほどの満足を得られなかったり、すぐに新たな望みが湧いてきて、不足感を感じ続けたりする。

人間はいつも望みを抱き、叶えてもすぐに不満を感じ、また望みを抱く。
ずっと望みと不満を繰り返す。
いったいなぜだろう?
もしあなたがこれまでの人生で、常に不満を感じてきたならば、ちょっとこんな風に問うてみるといい。

「この望みは、無人島にいても望むだろうか?」

何も無人島で生きるべしとか、人間社会で暮らしてはいけないというのではない。ただ、あなたの望みが、本当に大切なものなのか? あなたという存在を幸せにする“本当の望み”であるのかを見極めるのに、この問いは役立つ。

「金持ちになりたい」「出世したい」「いい成績を取りたい」「いい学校や会社に入りたい」「異性にモテたい」「能力を認められたい」「人から評価されたい」……

もし、あなたの望みが、無人島では成立しなかったり、意味を成さなかったりするものならば、その望みを叶えたとしても、喜びは長くは続かず、すぐにまた不満と欲求のループに陥るだろう。
それはなぜか?
実は、そうした望みは、本当はあなた自身から生まれたものではないからだ。

我々は、名前や住所、職業を持ち、社会の中で何かしらの役割をはたすうちに、いつしかそれが自分自身だと思い込む。しかし、それらはすべて、生きる中で身に着けてきたレッテルや衣服に過ぎない。そういう後付けの“あなたでないもの”を剥がし、本当の自分とは何なのかを突き詰めていくと、最終的に誰もが、動物や草花と同じ、一つの生き物、一つの生命であることに行きつく。
本当の望みは、そうした生命としてのあなた自身から発するものだ。生命の本質は成長と活力、そして自然との調和だ。ゆえに、そこから出てくる望みは、必ずあなた自身の成長と活力につながる、自然で健やかなものだ。

「心身ともに健康でありたい」「堂々と落ち着いていたい」「ユーモアを持ち、毎日を楽しみたい」「人に優しくありたい」「美しいものを感じたい」

こうした“本当の望み”は叶えたからと言って、飽きたり色褪せたりするものではなく、叶えるほどに深い満足感を恵んでくれる。そして自分だけでなく、周りにもくつろぎや喜びをもたらす。

しかし、我々は、こうした幸せな人生を実現する“本当の望み”がほとんど見えなくなっている。それは我々が、あまりにも、“モノ”、“カネ”、“人からの評価”といった、社会的に刷り込まれた価値を求める“欲望”に突き動かされて、頭も心もいつも不足感と焦りでいっぱいになっているからだ。

何も欲望は汚いからいけないというのではない。社会の中にある以上、どうしても様々な欲望に気を取られるのは、文明人の宿命でもある。しかし、そうした“作られた欲望”は決してあなたに真の満足をもたらさない。一つ欲望を満たしても、たちまち新たな欲望がうずき、それを満たしてもまたさらに……というように、常にあなたに不足感を感じさせ、あなたを渇かせ、欲望から欲望へとぐるぐるさまよわせ続ける。満足は永遠に得られず、ずっと不満と苦痛がついて回る。
というのも、社会はそのようにできているのだ。みんなが欲望を満たそうと動くことで、社会は維持され、すべての産業やシステムが成り立つようにできている。常に自分の持ち物と他人の物を比較し、購買意欲を掻き立てられ、本当に必要でないものまで買い漁る。他人から認められないと自分には価値がないように感じて、少しでも評価されようと競い合う。個人も企業も競争し、たくさんのカネとモノが動く。そして、その多寡で常に価値が測られる。
そこから逸脱することは社会からは全く求められていないし、みんなが買うようなものを買わず、競争にも加わらず、人目を気にせず、のんびりマイペースで暮らしていると、よくて変わり者、悪くすると危険な存在と見なされ、糾弾排斥される。

しかし、あなたは、いずれ死んでしまうのだ。生を終えるその日まで、世のシステムにそぐうように、与えられた価値観で自分を縛り、もがき続けるのか? ずっと人目を気にして、評価を求めて生きていくのか? 生を測る物差しをずっと他人にゆだねて自分を抑え、鞭打ち続けるのか? それでは、自然から個として分け与えられた一人一人の生命が黙ってはいない。
身体は遅かれ早かれ不調を来たし、心にはずっと不全感を抱いて、我慢していくことになる。それでも、我々は、そんな状態がすっかり普通になっているので、それが不健康だと気づかない。実はそもそも我々は、完全な健康というものをとうの昔に忘れてしまっているのだ。
本来、我々の体は、どこも痛くないのが普通なのだ。一晩寝たら、重くないのが普通なのだ。日差しや風を感じ、目に映る様々な色どりや、耳に入る音の面白さにワクワクするのが普通なのだ。心から笑ったり泣いたりできるのが普通なのだ。
作られた“偽の欲望”でない、“本当の望み”は、あなた本来の健康と幸せを開く鍵だ。

今のあなたの望みは何だろう?
それは誰のためのものなのだろう?
あなたにどんな人生をもたらすのだろう?