2021.04.05源庫

“成功”から解放されると、人生が輝く

「今回のプロジェクトは大成功だ」
「あいつは何をやっても成功する」
「ケーキが上手に焼けた。大成功!」

日々の暮らしで当たり前のように使う“成功”という言葉。それを遊びと捉え、ゲームと知って楽しむならいい。しかし、ひとたび成功という言葉を深刻に使い始めると、あなたの中に緊張が生まれ、人生は乾いた硬いものになっていく。

「絶対に成功しなきゃ嫌だ」
「成功しなければ意味がない」
「もうだめだ。私は成功から見放された…」

成功にとらわれればとらわれるほど、生きることは、苦しくなっていく。空しく、貧しくなっていく。
これはなぜか? 理由は明快だ。人生にはそもそも“成功”などというものはないからだ。存在しないものを軸に据えれば、空回りするのは当たり前だ。

我々は、人生の早い段階から“成功”を刷り込まれる。
いい点数を取ること、試験に合格すること、お金持ちであること、出世すること、モテること、キレイになること、人気を得ること、影響力を持つこと……。
それが社会の様々な利権やビジネスと結びつく。仕事や結婚から、美容や健康まで、“成功”を謳った商品やサービスが溢れ、様々な分野に「成功者」がいて、羨望や嫉妬の的になる。情報を調べ、モノを買い、消費社会に生きる中で、我々は日々、“成功したい”という欲求をかき立てられる。しかし実は、この“成功”とは、人間だけが生み出した完全なる妄想なのだ。そんなものはどこにもありはしない。ただの幻。ゲームの餌なのだ。

我々は、本来、星や大地、動物や植物と同じ生命だ。自然の一部だ。自然界には、“成功”というものなどない。猛獣は成功のために狩りをするのではないし、鳥は成功するために飛ぶのではない。木々や草花も、成功するために葉を茂らせたり花を咲かせるのではない。どれもこれも、すべてはただ、“生きる営み”なのだ。成功なんてなくても、そこには喜びや活力、生の充足があり、美しさがある。

「でも、成功を求めること自体はいいのでは? 要は、本当に価値あるものを成功とすればいいじゃないか」
「大事なのは、何を成功と捉えるかだ。自分にとって成功とは?」

そんな風に考えたところで、同じことだ。
“いい成功”も“悪い成功”もない。成功そのものが落とし穴なのだ。何かを成功とした瞬間、区別が生まれ、あなたは枷にはめられる。

「自分にとっての成功は、素敵な家庭を持つことだ。地位や出世なんてどうでもいい」
「私にとって、素敵なパートナーと生きることが成功だ。仕事や収入なんて何でもいい」

そう考えることで、あなたは金や地位や社会的な評価を気にすることからは解放されるかもしれない。しかし、素敵な家庭が持てなかったらどうか? 夫婦仲が悪くなったり、子供が言うことを聞かなかったり、家族が反目しあっていたらどうか? パートナーに出会えなかったらどうか? 恋人と別れたらどうか? 自分にとっての“成功”が果たされなかったのだから、あなたの人生は“失敗”ということになるのか。
人生が失敗? そんな馬鹿なことはない。失敗も成功と同じく、刷り込まれた観念。単なる作り事だ。人生に“失敗”というものなど存在しない。そこにあるのは、涙、悔しさ、怒り、悲しみ、寂しさ、切なさ……すべてがリアルな、かけがえのない感情だ。そこには笑いや喜び、達成感、愛おしさと同じように、生々しい色がある。それぞれの感情にしかない激しさや静けさ、美しさがあり、気づきの種が宿っている。それは、あなたを磨き、強くする。人生に深みをもたらし、充実させる。

しかし、今や、我々は心の中にまで“成功”と“失敗”を持ち込む。笑いや喜びがあれば成功、涙や悲しみがあれば失敗、という具合だ。これは心を硬くする。そうすることで、あなたはいつしか、強く感じること自体を無意識に恐れるようになる。思考や感情からは、次第に陰影が消え、のっぺりと不感症になっていく。生の充実も生きている実感も希薄になり、死んだような状態で朦朧と死ぬのを恐れるばかり。実のところ、それはすでに緩慢なる死だ。

誰の人生にもいろいろなことがあるが、すでに述べたように、そこには元々、“成功”や“失敗”など存在しない。
にもかかわらず、幼い頃からの刷り込みと習慣で、いつもあなたは、頭の中で“成功”を作り出し、同時に“失敗”も作り出す。あなたは出来事を選り好みし、ごく限られた結果や状態を追い求め、それ以外を忌み嫌い、恐れ始める。人生の多彩さを受け入れる度量も余裕も感性も失われ、狭く小さくしぼんでいく。

“成功”があなたを貧しく窮屈にする。“失敗”があなたを弱く臆病にする。
しかし、もし“成功と失敗”から解放されるなら、あなたの目の前で、あらゆることが輝きだす。
「価値がない」と切り捨てていたものの中に、思いがけない面白さがあり、嫌っていた人にも、切実な事情や気持ちがあり、恐れていた状況の中にこそ、チャンスや気づきの種が隠れていることを知る。
一つとして無価値なものなど無く、すべてが興味深く愛おしくなる。

あなたには、感じる力、味わう力が備わっている。それは、特定の対象にとらわれない無限の力だ。
あなたはどんな出来事からも旺盛に学ぶ。どんな状況も逞しく消化する。
あなたは、どこまでも成長する生命なのだ。