2021.10.17源庫

振り子 ~人生のリズム~

人は振り子のように生きる。
能動と受動、積極と消極、活動と休息、喜びと悲しみ、充実と退屈……。

ポジティブなものがよくてネガティブなものが悪いというのは、単なる刷り込みで、どちらも一つの極というだけのこと。人はこの両極を行ったり来たりすることで活力を維持し、生きている。
万物は波のように運動する。人生も波形を描く。上下動を繰り返す。上がることもあれば下がることもある。上がっている時には上昇のエネルギーが働き、下がっている時は下降のエネルギーが働く。一見、正反対のエネルギーのようだが、いずれも、生を前に進める推進力だ。実のところ、いかなる人にも後退というものはなく、誰もが前に進んでいる。

ある人が、傍目には、さえない顔で悩んでいるように見えたとしても、必ずしも止まっているとは限らない。実際、その人は、一つの極に向かう運動のさなかにあるのだ。放っておけば、いずれ必ず反転して動き出す。活力も増してくるし、運気だって勝手に上がってくる。
陰極まれば陽に転ずるし、底を打てば上がる。波は下がりきれば上昇する。そして、振り子は片方の極に至って初めてその動きを反転する。それが自然の摂理なのだ。

ところが、人は、その摂理に任せることができない。身近な誰かが元気がないと心配になるし、閉じこもっていると外へ出ろと言いたくなる。悲しんでいたら笑顔になってほしいし、悩んでいたら行動を促したくなる。あれこれやきもき世話を焼き続ける。
しかしこれは、自然のリズムに真っ向から逆らうのに等しいことだ。人は誰もが、ネガティブとポジティブの両極を行き来する振り子だ。たまたまネガティブな方向へ振れる途中の振り子に手を出して、無理やりポジティブな方向へ動かそうとすればどうなるか? 何せ、動きのただなかにあるのだから、振り子は当然抵抗する。それを力づくで抑えようとすれば、振り子は勢いを失い、止まってしまう。一旦止まってしまえば、もう容易には動かない。静止したものを動かすにはものすごい力がいる。負荷もかかるし、動かす側も動かされる側も大きく傷つく。

実は、人生の問題の殆どは、この自然に反復する“生の振り子”の動きを操作しようとすることからくる。自然に振れるままにしておけば、振り切った振り子は、まっすぐに戻ってくる。しかし、操作しようと手を出せば、振り子は勢いを失ってしまったり、出した手に弾かれてあらぬ方向へ逸れてぐるぐる回り出したりてしまう。そして、程なく勢いを失い停止する。

すべての人は生きているのだ。あなたの身近な人も、あなた自身も。
その力を信頼し任せる時、振り子は元気に動き続け、一つの極にいたる度に学びを深め、日々を味わい、その生を全うするだろう。